音楽業界のハヤマワシ問題
※本記事は、国立国会図書館に所蔵されている『とびら(奄美シマ唄音源研究所 会報 第1号)』に掲載された論説を、著者の意向により転記・再構成したものです。
人類が残した音の歴史を紐解けば、皆さんはある程度の情報を入手できることでしょう。シリンダー型レコードから円盤型レコード、針の縦振幅、横振幅、アコースティック録音、エレクトリック録音、78rpm、80rpmという回転数など、一般的な浅い情報は得ることができる。ところが最も重要な録音回転数についての情報はどこにも存在しないことに気付き、愕然となることでしょう。録音回転数が正しくわからなければ音楽は再現できないからである。
録音時の回転数を知らずに基準回転数78rpmを信じ再生すれば、どのような現象が起こるかは説明するまでもない。SPレコードの回転数78rpmに対する録音回転数差は、当時のエンジニアによる意図的な操作もあるし、そもそもメーカーによっても基準回転数値が異なり、さらにはカッティングマシンの機械的な性能差や摩耗、故障による動作不良も含み、供給電力差やリマスター時の操作など多様性がある。これら環境で市販されたレコード盤を78回転や適当な回転で再生し、LPレコードやCDにプレスされている実態もあり、さらに加えればA音周波数基準がA440Hzではない楽曲もある。音程差はこれら複合的原因により現れている。
そしてこれらの録音記録実態はどこにも残されておらず、あるのは間違った再生音 “現象” だけである。 その現象に気付く人は少なく、せいぜい違和感を感じながらも受け入れているというのが、世界で起こっている音楽史100年間の実情である。
録音時の回転数を知るためには分析が必要となり、SPレコード盤いわゆる原盤(一次資料)を入手し精査することが重要となるが、入手という必須条件を満たす困難があり、作業には特異な音楽脳や技術も必要となる。現存したレコード盤が割れていたり針飛びが起こるレコード溝の修復作業、音程聴き取り、使用楽器の選別からチューニングや奏法に至るまでの音楽的な分析も必要となり、録音機材の確認や加えて音質イコライジングといったデジタル作業など、多くの経験や技能をも必要とする。
このため本当の唄声や演奏に戻すという修正作業は困難を極め、三味線などの弦楽器を使用した楽曲修正はさらに難解となる。戦前のブルースやジャズ、ヒルビリー、カントリーといった米国レコード再生誤差の修正は世界中で行われておらず、それは上記のような特異条件を満たせない理由があり、そもそも音楽評論家やメーカーの担当者が大きなハヤマワシ誤差を感じていない実情もある。
一般の人が聴いても違いが分からず楽しめる20cや30c程度の音程誤差などは直す必要もないと思うが、100c(半音)、200c(全音)、それ以上の誤差が発生しているハヤマワシはもはや音楽を再現しているとは言えず、滑稽極まりない姿で発現し、修正の必要がある事は言うまでもない。 中山音女さんの既発CDは、200cを遥かに超えるハヤマワシ再生として発表されていました。(※c=セント、半音を100刻みで表す単位) ニッポンレコード・トンボ印の昭和初期録音を検証する過程で調査した、同スタジオで録音された国内SP盤には同様の誤差があり、修正されずハヤマワシのまま伝わっている事実も確認した。今回の修正はおそらく日本版SPレコード史上初めての修正音源集となり、奄美大島発 日本初の快挙となる。
出典・参考文献
『とびら』第1号(奄美シマ唄音源研究所 会報) 2023年5月1日発行 発行元:奄美シマ唄音源研究所(代表:沖島基太) 発行協力:菊地明
【公的機関所蔵情報】 国立国会図書館 所蔵 請求記号:YU51-M1288 書誌ID:032744469 ▶ 国立国会図書館サーチで確認する